外国株式の投資には多くのリスクが存在しますが、その中でも「為替リスク」は特に注意が必要です。
為替リスクとは、異なる通貨で取引される資産の価値が、通貨の変動によって変わるリスクのことです。
これに対処する方法として「為替ヘッジ」という考え方があります。これは、為替リスクを管理し、投資の安定性を高めるための重要な手法です。
為替ヘッジとは
簡単に言うと、為替ヘッジとは通貨の価値変動からあなたの投資を守る手段です。
例えば、米ドルで株を買ったとします。もし円がドルに対して強くなれば、ドル建ての株の価値は円で換算すると減少してしまいます。
為替ヘッジなしの場合の具体例
この為替ヘッジの具体例を考えるために、まず投資シナリオを設定しましょう。投資金額は1,000ドル、購入時の為替レートは1ドル = 150円、売却時の為替レートは1ドル = 130円です。また、銘柄の価格変動はないという条件です。
- 購入時の状況
- 投資金額: 1,000ドル
- 為替レート: 1ドル = 150円
- 投資に必要な日本円: 1,000ドル × 150円/ドル = 150,000円
- 売却時の状況
- 銘柄の価格変動なし、従って売却金額も1,000ドル
- 為替レート: 1ドル = 130円
- 売却による日本円での収益: 1,000ドル × 130円/ドル = 130,000円
- 損益の計算
- 購入に使った金額: 150,000円
- 売却で得た金額: 130,000円(為替の影響で変動)
- 損失: 150,000円 – 130,000円 = 20,000円
上記のシンプルなシナリオではドル円が円高に進み、為替だけで数万円の損失が発生しました。
為替ヘッジを使えば、このような通貨変動のリスクから投資を守ることができます。
為替ヘッジありの場合の具体例
為替ヘッジを行った場合、目的は為替レートの変動による損失を回避することです。これを達成するためには、投資時点で将来の為替レートを固定する必要があります。
- ヘッジ契約の締結
- 投資時に1ドル = 150円のレートでフォワード契約を結びます。
- 売却時の状況
- フォワード契約により、1ドル = 150円のレートで売却が保証されます。
- 売却による日本円での収益: 1,000ドル × 150円/ドル = 150,000円
- 損益の計算
- 購入に使った金額: 150,000円(変わらず)
- 売却で得た金額: 150,000円(ヘッジにより変動なし)
- 損失: 150,000円 – 150,000円 = 0円(為替変動による損失なし)
この例では、為替ヘッジによって、為替レートの変動に伴う損失を防ぐことができています。
ただし、フォワード契約などのヘッジ手法にはコストがかかる場合があるため、実際のネット利益はこの計算より少なくなる可能性があります。また、このシナリオは市場価格の変動を考慮していません。実際の投資では、株価の変動も重要な要素となります。
為替ヘッジのメカニズム
為替ヘッジにはいくつかの方法があります。
一般的なのは「フォワード契約」で、これは将来の特定の日付に特定の為替レートで通貨を交換することを約束する契約です。
フォワード契約とは?
フォワード契約は、将来の特定の日に、あらかじめ決められたレートで通貨を交換するという約束です。この契約は、為替レートが変動するリスクから守るために使われます。
▼フォワード契約の仕組み
- 契約の締結
- 二者間で合意が行われ、将来の特定の日に特定の通貨を、事前に決められたレートで交換することが約束されます。
- レートの固定
- 契約時点での為替レートや市場の予測を基に、将来の交換レートが固定されます。このレートは、実際の市場レートとは異なることがあります。
- 交換の実行
- 契約の満期日になると、約束されたレートで通貨の交換が行われます。
▼具体例
投資家Aが米ドルで海外投資を行う場合を考えます。現在の為替レートが1ドル = 100円だとします。投資家Aは、1年後にこの投資を円に換金したいと考えていますが、為替レートが変動するリスクを避けたいと考えています。
ここで、投資家Aは銀行Bとフォワード契約を結びます。この契約では、1年後に1ドル = 100円のレートでドルを円に交換することが約束されます。
1年後、もし市場の為替レートが1ドル = 90円になっていたとしても、投資家Aは契約に基づき1ドル = 100円で円に換金できるため、為替変動による損失を回避できます。逆に、市場レートが1ドル = 110円になっていた場合でも、投資家Aは100円のレートで交換するため、より高い市場レートでの利益を得ることはできません。
▼フォワード契約の利点とリスク
- 利点: 為替レートの変動リスクから保護される。
- リスク: 市場レートが有利に変動した場合でも、契約レートで取引しなければならない。
フォワード契約は、特に国際的な取引や投資を行う際に、為替リスクを管理するための強力なツールです。しかし、市場の動向によっては、有利な取引機会を逃す可能性もあるため、契約の締結には注意が必要です。
他にも「オプション契約」や、異なる通貨で収益と費用をバランスさせる「ヘッジ」などがあります。
為替ヘッジのメリット
為替変動を抑えるメリットはいくつかあります。
為替リスクの軽減
為替ヘッジにより、通貨価値の変動による損失を減らすことができます。これは、特に長期間に渡って海外株式に投資する場合に役立つことがあります。
収益の安定化
投資収益は通常、市場のパフォーマンスに依存しますが、為替ヘッジを行うことで、通貨変動による収益の不安定さを抑えることができます。
収益の予測がしやすい
投資戦略を立てる際に、為替リスクを事前に管理できると、より正確な収益予測が可能になります。
選択肢が増加する
為替ヘッジを理解することで、投資家はリスク許容度に合わせて、より柔軟性のある投資戦略を考えることができます。
為替ヘッジのデメリット
為替ヘッジにはコストがかかる場合があり、また市場の変動を正確に予測するのは難しいため、常に完璧な保護を提供するわけではありません。
コストの発生
為替ヘッジにはコストが伴います。例えば、フォワード契約やオプション契約を使用する際には、プレミアムや手数料がかかることがあります。
為替による収益が見込めない
為替ヘッジを行うことで、通貨価値の有利な変動から恩恵を受けることができなくなる場合があります。つまり、市場が予想とは逆に動いた際の追加的な収益を逃すことがあります。
投資が複雑になる
為替ヘッジの戦略は、しばしば複雑であり、特に初心者にとっては理解しにくい場合があります。適切なヘッジ戦略を立案・実行するには、為替ヘッジが有効な銘柄を把握し、ヘッジコストについての理解が重要です。
流動性リスク
為替ヘッジは株式投資や投資信託において有効な手段ですが、ヘッジコストを嫌う投資家も多くいるため、タイミングによって流動性に問題を抱える銘柄が多くあります。
【重要】為替ヘッジのコスト
為替ヘッジにはコストが発生します。このコストは主に2カ国間の金利差によって影響を受けます。
為替ヘッジのコストの具体例
為替ヘッジのコストを理解するために、まず日本とアメリカの金利差を考慮する必要があります。
日本の金利が-0.1%、アメリカの金利が5.25%という状況では、ドルを持っている方が、円を持っているよりも利息の面で有利です。
- ドルの金利が高い: ドルを持っていると5.25%の利息が発生します。これは、ドルの価値が時間とともに増加することを意味します。
- 円の金利が低い: 一方で、日本の金利が-0.1%であるため、円を持つことはほとんど、または全く利息を生みません。
為替ヘッジを行うとき、特にフォワード契約を使う場合、実質的にはある通貨(この場合はドル)を「借りて」別の通貨(円)を「貸す」ことになります。このとき、ドルと円の金利差がヘッジコストに影響を及ぼします。
ヘッジコストとしてのプレミアム
為替ヘッジでは、ドルを貸してくれる人に対してプレミアムを支払う必要があります。
このプレミアムは、ドルの利息(5.25%)と円の利息(-0.1%)の差から生じます。つまり、ドルを借りるためには、その金利の高さを補うために追加の費用が発生します。
たとえば、あなたがアメリカの株式に投資している日本人投資家だとしましょう。あなたは為替リスクを避けるために為替ヘッジを行いたいと考えています。この場合、あなたはドルを借りて円を貸すことになり、ドルの高い金利の分だけ追加のコスト(プレミアム)を払うことになります。
よくある質問
- Q為替ヘッジはすべての投資に必要ですか?
- A
必ずしもそうではありません。特に国内資産のみで投資を行う場合は為替ヘッジは不要です。
- Q為替ヘッジはいつ利用するべきですか?
- A
年金ファンドのような長期投資家はしばしば為替ヘッジを利用しますが、研究によれば長期的な視点では為替変動がパフォーマンスに与える影響は限定的です。為替ヘッジにはコストが関わるため、個人投資家は短期から中期の投資、特に為替変動の大きな期間に重点を置いて利用することが適切です。
- Q初心者にも為替ヘッジは必要ですか?
- A
海外株式に投資する初心者の場合は、為替変動が無くなるのでハードルが下がる利点はあります。一方で、為替ヘッジが有効な銘柄は為替以外のリスクも付きものです。投資に関する基礎知識の学習も大切です。
- Q為替ヘッジができる銘柄を教えてください。
- A
為替ヘッジありETFの一覧を以下の記事にまとめています。
関連記事:【保存版】為替ヘッジありETF一覧を紹介
- QCFDの指数取引において、為替の影響はないと言われますが、これは為替ヘッジの一形態ですか?
- A
CFD取引では、為替ヘッジの概念は直接適用されません。CFDトレーダーはOTC市場で取引し、取引する通貨はCFDブローカーによって設定されます。CFDの海外指数において、取引単位が「円」であれば為替影響を受けません。しかし、「ドル」などの外国通貨が取引単位であるCFD商品は為替の影響を受けることになります。
まとめ
為替ヘッジは、投資における重要なリスク管理手法の一つです。初心者でも、基本から学び、徐々に応用へと進むことで、効果的に為替リスクを管理することが可能です。投資の世界への一歩を踏み出す際に、この知識があなたの強い味方となるでしょう。