この記事では次世代の医療用画像診断装置を開発するナノックス・イメージング(英:Nano-X Imaging)の基本的な投資情報を解説します。
この記事は以下の資料を参考にまとめています。
- Nano-X Imaging Ltd.: Bullish On Innovative ‘X-Ray As-A-Service’ Potential(seekingalpha)
- NANOX.vision(公式サイト)
- Investor Presentation – November 2020(プレゼン資料)
- Hot Vs. Cold Cathode Technology Overview(ホワイトペーパー)
- The Nanox Source in Pulsed Fluoroscopy(ホワイトペーパー)
- Digital Breast Tomosynthesis and Breast Cancer Screening(clevelandclinic)
- CTとMRIはどう違うの?(キャノン)
- CT Scan vs. MRI(healthline.com)
なお、ナノックス・イメージング(以下、NNOX)の紹介が目的であり、投資を推奨するものではありません。
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ナノックス・イメージング(NNOX)の投資情報
まずはNNOXがどういった企業なのか見ていきましょう。
NNOXはイスラエル発の医療用画像診断装置の開発を手掛けるベンチャー企業です。小難しい領域でビジネス展開を計画しているNNOXですが、同社のことを知れば知るほど『革命的』だと感じるはずです。
NNOXの注目ポイントは以下のとおり
- NNOXのビジョンは『画像診断を身近に』
- X線画像診断装置に100年ぶりの革命?
NNOXのビジョンは『画像診断を身近に』
WHOの調査では世界人口の2/3は有効な画像診断装置を利用できない状態だそうです。残りの1/3も診断結果を得るまでに数週間から数ヶ月かかることもあるため、装置が世界的には不足している状況です。
デバイスの増台が解決手段ではあります。しかし、こういった医療用画像診断装置は高価で複雑であるため、大量生産が難しいというジレンマが存在します。
NNOXはこのような医療ソースを手軽に利用できる世界にすることをビジョンとしています。
コストの問題で普及していないわけだから、今後も解決するのは難しいんじゃないの?
CTやトモシンセシスといった画像診断装置は数千万円〜数億円するため、こういった疑問を感じても不思議ではありません。
後ほど解説をしますが、NNOXは画像診断装置そのもののコストを圧倒的に安くして、掲げているビジョンを達成しようとしています。それを実現可能にするためのNNOXの技術が革命的なのです。
X線画像診断装置に100年ぶりの革命?
既存のCTなどのX線装置ではX線を生成するために熱エネルギーが必要です。それは摂氏1,000度以上かも、2,000度以上かもしれません。かなり高温になってしまうため、冷却が必要であり、費用がかかる部分です。NNOXの発見は、機器の加熱と冷却を必要としないナノテクノロジーを使用したX線の生成方法です。
NNOXはトモシンセシス(製品名:ARC)と呼ばれるX線画像診断装置を開発しています。
医療用画像診断に使われるデバイスにはMRI、CT、トモシンセシス、PETなど色々な種類があります。それぞれの特徴を理解しておくとNNOXが開発するARCの可能性をより理解できます。マニアックな内容になってしまいますので、記事の最後に記載しておきます。
従来のCT装置は購入に数千万円ほどの費用が必要です。上位機種になると数億円というものも存在します。定期的にメンテナンスも必要ですが、それにも高額なコストが発生します。
NNOXのARCはこういったイニシャルコスト(初期投資)やランニングコスト(維持費)の高い壁を大胆に破壊しようとしています。NNOXの想定では初期投資に数百万程度(100万円〜)、X線真空管の交換費用は1万円〜という破格の金額となっています。
機種 | 初期投資 | 維持費 |
---|---|---|
従来のX線画像診断装置 | 数千万~数億円 | 1000万円~ |
NNOXのARC | 100万円~ | 1万円~ |
それではどうやって、このような価格を実現しようとしているのでしょうか?
NNOXの革命部分を見ていきます。
X線真空管の新しい技術
X線画像診断に必要とされるX線真空管。ヴィルヘルム・コンラッド・レントゲン氏がX線技術を発明してから120年も技術進展がない分野とされています。
従来のX線診断に必要とされるパーツがX線真空管です。これに用いられる熱陰極カソードは摂氏2,000度近くの高温を必要とするため、寿命や発光性能が低いとされています。
X線真空管の働きを少しだけ理解
上図にあるように、①フィラメント部分に高電圧をかけて電子を生成、②Tungstenに電子がぶつかると、ほとんどは熱エネルギーに変換され、③残りがX線として照射される。
これが従来のX線真空管がX線を照射するメカニズムです。
①のフィラメント部分は10,000時間ほど使えるそうですが、一般的にメーカーによる交換が必要だそうです。その交換費用が非常に高額と言われています。画像診断装置は治療にとって必須であるため、寿命とされる10,000時間よりも遥かに余裕を持って交換されるみたいです。(フィラメント以外の故障なども当然発生するそうです。)
NNOXはこのフィラメント部分で革新的な技術を開発しています。
熱エネルギーを発生させないフィラメント(冷陰極)
NanoxのX線真空管にはFED-MEMs方式(Micro-Electrical-Mechanical-Systems)と呼ばれる技術が利用されています。
先述のとおり従来の熱陰極は摂氏2,000℃近くまで加熱されるため、冷却などのローテーション作業が必要になります。
Nanoxの技術ではシリコン素材の上にチップが取り付けられています。X線放射のさいに熱を発生される必要がなく、システム自体の負荷が少ないようです。熱エネルギーをほとんど必要としないため冷陰極と呼ばれています。
冷陰極のメリットを理解する
X線真空管の小型化
照射源を複数セットすることができ、コストメリットも出せる
エネルギーの効率化
冷陰極カソードを使うことでエネルギーロスを大幅に減らせるため、将来的には移動式の画像診断装置への応用が可能になる
温室レベルでの運用
従来のX線真空管では2,000℃近い熱エネルギーが発生するが、MEMs方式では温室レベルで稼働させることができる
迅速な電力の切り替え
従来の画像診断装置では熱陰極から放出した電子をTungstenに当てる際に高電圧の付加と切り替えを行うための時間を要する。MEMs方式なら射出部の電圧を変えるだけなので、透視検査などに威力を発揮する
冷陰極はNNOXだけやってるの?
冷陰極タイプのX線真空管はNNOXだけがやっている訳ではありません。
冷陰極にはカーボン・ナノ・チューブ(CNT)という方式もあるようです。ただし、NNOXの資料では商用化が現実的ではないそう。(詳細については調査中です)
NNOXのホワイトペーパーに書かれたCNTとの大きな違いについて一部だけ紹介しておきます。
FED-MEMsでは電子照射が一定方向であり電圧も少ないですが、CNT方式では電子照射の方向にバラつきがあり、電圧も高くなるようです。結果的にCNTの耐久性に疑問を呈しているわけです。
MEMsがX線真空管の長寿命化と低コスト化に繋がっている技術部分です。
CNTを商用化している企業
NNOXの言い分はさておき、カーボンナノチューブ(CNT)を実装したX線画像診断装置を販売する企業も出てきているようです。
こちらシマさん(@f6f4RwaNK4XBPTx)からの情報です。
NNOXの技術力の背景
NNOXが手掛けるMEMs方式は、もともとソニー(SNE)がブラウン管テレビ用に開発したもので、2011年にNNOXが買収して、X線真空管に転用しています。
このMEMsの開発には日本人技術者も加わっています。イスラエルと日本のチームアップで最先端CTの開発を進めています。東京大学にMEMsの研究室があることが、公式サイトの動画から分かります。
役員を見ているとGE出身者だったり、東京大学法学部出身でベンチャーキャピタルをやっている桝谷均氏など、輝かしいバックグラウンドを持った人が大勢いることが分かりました。桝谷均氏についてはNNOXの特許出願でよく名前が出てきますので、中核的な人物と思われます。
NNOXが掲げるX線真空管のコスト
このようなMEMsの技術によって『小型化・低コスト・長寿命化』のX線真空管であるNanox Tubeが完成したわけです。
NNOXの発展の鍵を握っていそうな『コスト戦略』について考えると、従来のX線真空管との比較で驚きの試算がでています。
通常のX線装置で使用するX線真空管の交換費用を安く抑えられることがポイントです。
- 従来品:平均150,000USD
- NNOX:100USD以下を想定(大量生産が可能なら)
Nanox Tubeを利用するメリットとは?
Nanox Tubeは低コスト化だけではなく、小型化にも成功しています。
それはARC装置に複数の照射源を取り付けできることを意味しています。結果的に2D、3D、場合によっては11方向の軸位照射が可能であることもIR資料から見て取れます。
NNOXのARC装置の実力
NNOXの技術が詰まったトモシンセシスARC装置ですが、画像診断に用いられる読影にも重宝しそうです。
右が1895年にレントゲン氏が撮影したもので、左がPokiakine氏(CEO)がデモンストレーションイベントで撮影したものです。
素人目に見ても、骨関節や周りの組織部分が鮮明に映し出されていることが分かります。
NNOXのアドバイザーとして参加している放射線医のMichael Yuz氏もデモンストレーションの中の一部の症例で「ここまで鮮明に読影できるものは初めてだ」とコメントをしています。
NNOXが想定する収益
NNOXが考えている収益源はARC装置の販売ではなく、装置をインストールした後のサブスクリプションです。
そのため、装置自体は1万ドル以下と尋常ではないほどの低価格帯を想定しています。
CEOの各種インタビューでは、基幹病院(大学病院や官公立病院)の診断装置というよりも、クリニックや救急センターでの使用を想定していると見て取れました。
日本国内でも上位機種のCT装置は1億〜3億円くらいしますし、維持管理にも高額なコストが必要になります。NNOXのターゲットは明確です。
戦わないマーケット戦略
医療用画像診断装置は競合がたくさんいる市場ですが、NNOXは過当競争のマーケットから距離を置いていることもポイントかと思います。これも低コストだからできるマーケティングだと思います。
Pay per Scanの収益方式
NNOXでは撮影ごとに14USDを請求するサービスを検討しています。
NNOXのIR資料を確認すると、どうやらすでに5150台の販売契約を結んでいるらしいです(各国での薬事承認待ちという状況)
そこからどれくらいの収益が発生するか試算がされています。
5150台から発生する年間の収益予想
スキャン回数 | 年間収益 | 目安 |
---|---|---|
7回 | $139,000,000 | 最低限の使用回数 |
20回 | $397,000,000 | NNOXが目標とする使用回数 |
60回 | $1,192,000,000 | 世界での直近の想定使用回数 |
このようにNNOX側でかなり少なく見積もっても、1億ドル以上の売上げが発生する可能性が高いと言えます。
NNOXの今後の展開は?
NNOXが発表しているIR資料から、同社が計画している内容はご覧のとおりです。
- 医療用画像診断の機会の創出
- 2024年までに15,000台のARC装置を出荷(財務の健全化と法令の明確化)
- CAPEXと自社システムに投資
- スキャンごとの支払い方法の運用、サブスクリプションモデルの構築
年次計画から読み取れるポイントは以下のとおりです。
- 2021年の上半期までにFDAの承認を得る(シングルソースは2021年4月2日に承認済み)
- 2021年の下半期に最初の商用ARC装置の製造と出荷を行う
- 結果的に2021年から収益が発生
- 2024年までに約15,000台を出荷して世界中で運用
営業網を広げるパートナーシップ
メキシコやイタリアのほうでは代理店の選定も進んでいることが最新のIR資料から見て取れました。
USARAD Holdingという放射線科医が運営する遠隔操作などを行う企業との提携を進めています。このように各地でパートナーシップを強化することで、NNOX自体の営業コストを下げる目的があると考えられます。
FDAの承認について
2021年4月2日にNNOXのIRサイトでシングルソースのFDA承認を受けたと速報が出ました。
NNOXにとって大きな一歩となっています。他にもFDA承認が必要なものが残っていますが、NNOXが次世代のトモシンセシスを開発していることが事実だと分かり、投資家の間には安心感が流れたと想像できます。
NNOXに投資する際のリスク
NNOXに投資を検討するうえで理解しておきたい同社のリスクはご覧のとおり。(もちろん他にも潜在的なリスクがあることも理解して下さい。)
- FDAのマルチソースの承認の可否
- 新興国での医療用画像診断とPay per Scanは進むか
FDAのマルチソースの承認の可否
NNOXではシングルソースのFDA承認を無事に受けることができました。
しかし、商用化を目指すにはマルチソースの承認が必要不可欠だと、IR資料からも読み取れます。
CEOはマルチソースの承認についても、自信があるとインタビューで答えています。一方で、投資をする場合にはFDAの承認について、動向をしっかりチェックしておくべきです。(約4年前からFDAの承認はハードルが上がったと言われています。これは私の本業でも影響が出たことがあり、承認申請のやり直しなどでローンチが大幅に遅れることがよくあります。)
NNOXが必要とするFDA承認が得られないと分かれば、NNOXのARC装置が鉄の塊になります。
NNOXは最終的に低被爆のCT(マルチスキャナー)に技術を繋げてくると思いますので、マルチソースのFDA承認が非常に重要です。
新興国での医療用画像診断とPay per Scanは進むか
NNOXは特に発展途上国での医療用画像診断の普及を目指して、Pay per Scanでの収益を考えています。
ARC装置が各国で承認された際に『人的不足』が問題になる可能性があります。
ARC装置を使用する放射線技師や読影ができる医師などは、そもそも発展途上国においては不足しています。(これは医療が発展した先進国ですら、足りていないと言われています。)
また、基礎診断はできても、基礎治療すらできないという医療ソースが不足している国が多いのが現状です。そう簡単にNNOXが目論むPay per Scanのビジネスが構築できるとは思えません。
NNOXを知るための予備知識(必要な人だけ)
CTとMRIの違いについて
NNOXが開発しているのはトモシンセシスです。トモシンセシスとは一体なにか理解するために、医療現場のイメージ装置としてよく利用されるCTとMRIの違いについて最初に解説します。
CTの一般的な使用例
骨折、腫瘍、内出血、胸腹部、頭部
MRIの一般的な使用例
関節部、脳、手首、足首、胸腹部、心臓、血管、脊髄、神経
このようによく利用される部位が異なっています。脳の画像診断であれば造影剤が不要なMRIが好まれ、肺の画像診断なら空気も描写できるCTが利用されます。一般的にはCTの方がMRIよりも頻回に利用されることになります。
これは日本国内での保有台数からも見て取れます。
CTとMRIは利用する媒体が異なるため、それぞれメリットとデメリットが存在します。
装置 | 媒体 | 放射性 | 検査時間 |
---|---|---|---|
CT | X線 | あり | 短い |
MRI | 磁気 | なし | 長い |
補足的な情報としては、CTでは画像の細かさに影響を与える『空間分解能』がMRIより優れており、MRIではコントラストに影響を与える『濃度分解能』が優れている言われています。
X線を利用するCTは被爆や胎児への健康被害というリスクがあります。また、磁気を利用するMRIではペースメーカー患者で禁忌(利用禁止)とされています。
トモシンセシスとCTの違いについて
こちらに関しては筆者は専門ではないため、詳細を知りたい場合にはオムロン社のHPを参考にして欲しいと思います。
かなり簡単に違いをまとめると、『撮影角度』と『被曝量』について、それぞれ異なった特徴を持っています。
X 線画像取得方式
X 線画像取得方式ごとの特徴
これを表にまとめてみると以下のようになるかと思います。
装置 | 媒体 | 被曝量 | 検査時間 |
---|---|---|---|
MRI | 磁気 | なし | 長い |
CT | X線 | 大きい | 短い |
トモシンセシス | X線 | 少ない | 短い |
このようにトモシンセシスは被曝量が少なく、検査時間が短いため注目をされています。
ここまで解説してきたNanox社の技術が加わっていくので付加価値が生まれるというわけです。
IF30のほろほろよりコメント
私の本業が医療関係ということもあり、CTが利用されるシーンは本当によく見ます。一方で、トモシンセシスに再注目が集まっていることも事実かと思います。今までのトモシンセシスは乳がん検診などでよく用いられた技術ですが、応用範囲を広げる動きがあるようです。
実際に放射線技師の人に話を聞いてみたこともあります。CTではなくトモシンセシスで十分だという意見も多いようです。
世界の医療に大きな貢献をしそうなNNOXを今後もウォッチしていきます。流動性の高い情報はツイッターでお知らせしますので、ぜひフォローしておいて下さいね!
NNOXはこちらのスレッドにまとめていきますよ。
$NNOX
— ほろほろ (@investfrom30) March 22, 2021
既存のMRIではX線を生成するために機器を温める必要がありますが、それは摂氏1,000度以上かも、2,000度以上かもしれません。かなり高温になってしまうため、冷却が必要であり費用がかかる部分です。Nano-Xの発見は、機器の加熱と冷却を必要としないナノテクノロジーを使用したX線の生成方法です